ワイルドで人間的な日々
何がきっかけでここへ来たのか、正直よく覚えていない。あまり思い出せない。
コロナウイルスの流行により、留学先から帰国し、短期的にも長期的にも将来を模索していたとき、百姓庵の存在を知った。
「自給自足」や「農業」といった言葉に惹かれ、応募に至ったような気がする。
当時はなにか強い思いがあったような気がするのだが、向津具半島に着くころには忘れてしまっていた。
が、とにかく飛び込んでみよう、見てみたい体験したいという一心だったと思う。
ここではかなりワイルドな生活が用意されていて、寝床があるシェルター以外のものは外、というかんじだった。
シャワー、トイレ、キッチン?は外。
シャワーに関しては、一部壁で塞がれていない箇所があり、体感的には外と一緒。マイナス何度の日にはガクブルしながらお湯を浴びた。
滞在した三週間のうち二度、シャワー中に水が出なくなるというハズレの日があった。なかなかに寒かったなあ。
トイレは簡易式のもの、キッチン?は日によって火力が異なる竈、と七輪。
竈で調理するご飯が本当に本当に美味しかった。
今まで食に対し、あまり喜びや感動を覚えたことはなかったのだが、肉体労働後だったことも相まってか、ご飯ってこんなに美味しいんだ、と純粋に思った。
百姓庵の畑で育った野菜と百姓庵のお塩の美味いこと美味いこと!
本当に、毎日が新鮮だった。
火を熾すのも、大きな薪を運ぶのも、木材の山を歩くのも、竹の枝を切るのも、竹を運ぶのも、ダンプトラックに乗るのも、荷台にのぼるのも、牛糞やにがり、灰を撒くのも、鶏糞を袋に詰めるのも、じゃがいもを植えるのも、野菜の種を植えるのも、柵を立てるのも、電気柵の紐張りも、石膏ボードを切るのも、プラスチック製品を砕くのも、蛇口をひねっても水が出ないのも、動物に大切な食料を奪われるのも(絶望した)、猪の存在を近くで感じるのも、
何もかもが初めてで、充実していて、あっという間に時は過ぎてしまった。
また、様々な人との出会いがあった。百姓庵の人たち、向津具の人たち。
農業について、畑づくりについて、仕事について、人生について、将来について、それぞれの人からそれぞれ大事なことを教わった。
何気ない会話も、笑い話も真剣な話も、どれも楽しかったし、些細なことからも学べることがたくさんあった。背景にあるその人の信念や考え方など、私の知らなかったものたち。
出会えてよかったと、心から思う。どんなにどんなふうに感謝してもし足りない。
三週間受け入れてくださって、ありがとうございました。
本当にお世話になりました。
エメラルドグリーンがかった水色の澄んだ海と、棚田広がる青い山々。
生きている感触のする向津具半島に、またいつか舞い戻ってきたい。
最後になってしまったが、現状に違和感を抱いていたり、このままでいいのかなと感じている特に大学生に、百姓庵の扉をたたいてみることを勧めたい。(募集状況はHPで確認してくださいね、これからも募集があるかどうか私には分からないので。)
ちゃんと生きている人たちに出会えるし、考え方や生き方に触れ、また自然の近くで働くことで、見えてくるものがあるんじゃないかな。
私は、どう表現したらいいのかわからないけれど、これからの人生においての指針となる大きなものを自分の中の深いところで得た感じがする。
あなたも是非。
飯田里奈